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    2025.07.23

    カヌレの記憶、甘い時間の旅──フランス修道院から神戸北野へ

プロローグ|「これは、どこの国のお菓子?」

その日、彼女がぽつりとつぶやいた。
「このお菓子、なんて名前だったっけ……外がカリカリで、中がもちっとしてて……」
紅茶の湯気の向こうで、ころんと並ぶ小さな焼き菓子。
僕が答えるより先に、店のスタッフが微笑んだ。

「カヌレでございます。フランス・ボルドー地方の伝統菓子です」

——カヌレ。
名前は知っていても、その歴史や背景を語れる人は少ない。
けれどこの小さなお菓子には、数百年にわたる物語と、時代を超えて愛されてきた理由が隠されていた。

僕と彼女の、カヌレとの“再会”は、神戸北野の坂の途中にある、小さな専門店から始まった。

第一章|カヌレのはじまり|静かな修道院の台所にて

カヌレのルーツは、16世紀のフランス南西部・ボルドー地方にある。

そのはじまりは華やかなものではなく、むしろ質素で実用的な背景を持っていた。
ワインの名産地であるボルドーでは、ワインの清澄作業に卵白を大量に使っていた。
その結果、余った卵黄が大量に残ってしまう。

この卵黄の活用方法として生まれたのが、小麦粉と牛乳を混ぜて焼き上げる素朴なお菓子。
修道女たちは、貧しい人々への施しとして、この小さな焼き菓子を作り続けていた。

最初は「カニャレ(Cannelet)」と呼ばれ、現代のような型に入れず、素手で成形されていたとも言われている。

誰のためでもなく、ただ“余った材料を無駄にしない”という、慎ましい心から生まれたお菓子。
その姿は、どこか今の“サステナブル”という言葉を先取りしているようでもある。

第二章|貴族たちに見出された“修道院の味”

18世紀頃、このカニャレに転機が訪れる。

修道女たちの作るその素朴な味が、やがて貴族たちの間で話題になり、街中の菓子職人が競って模倣を始めるようになったのだ。

当時のフランスでは、特定の職人ギルド(組合)が製造権を持つことが許されており、「カヌレを誰が作っていいのか」が争点になることもあった。

型に蜜蝋を塗って焼き上げることで、外はカリッと香ばしく、中はしっとりとした独特の食感が生まれる——これが現代に続く“本物のカヌレ”の原型となる。

やがて、カニャレという呼び名は「カヌレ(Canelé)」へと変わり、ボルドーの街を象徴するスイーツとして定着していった。

外は焦げるほどに黒く、内側はまるでプリンのようにとろける。
見た目の地味さに反して、口にすれば誰もが驚く。
そのギャップこそが、カヌレの魔法だった。

第三章|姿を消した時代、そして静かな再発見

しかし、20世紀の中頃、カヌレは一時的にその姿をフランスの街角から消す。

戦争、時代の変化、大量生産の波の中で、手間暇のかかるカヌレは“時代遅れ”とされ、菓子店からも次第に消えていった。

それでも一部の職人は、静かにレシピを守り続けていた。
そして1980年代、ボルドーの伝統を愛するパティシエたちによって、カヌレは“再発見”される。

「懐かしいのに、新しい」
そう感じる人々の心をつかみ、カヌレは再び人気を取り戻していった。

21世紀に入り、パリの有名パティスリーでも取り扱われるようになり、ついには海を越えて、日本へと渡る。

第四章|日本でのカヌレ|“映え”から“本物志向”へ

日本で最初にカヌレが注目されたのは、1990年代後半の“フランス菓子ブーム”だった。
ガレット・デ・ロワ、マカロン、タルト・タタン……
その中に、少しだけ地味な存在として“黒いお菓子”が紛れていた。

当初は見た目に馴染めないという声もあったが、その独特の食感と香りが口コミで広がり、根強いファンを獲得していく。

特に近年では、焼きたてにこだわった専門店や、素材への徹底したこだわりが話題となり、SNSでも再ブームに。

  • 「小麦粉ではなく米粉で作ったグルテンフリーのカヌレ」
  • 「トリュフや抹茶、ゆずなど、日本独自の素材を使った変化球」
  • 「ギフトに最適な宝石箱入りカヌレ」

こうしたトレンドの先頭を走っているのが、まさに神戸・北野の「Penheur(プノール)」だ。

第五章|Penheurが描く、カヌレの“今と未来”

Penheurを初めて訪れたとき、僕と彼女はその美しいパッケージに目を奪われた。
けれど、もっと驚いたのは「味」だった。

外はカリッと焦げる寸前。
中はラム酒とバニラがふわりと香る、もっちりとした贅沢な口当たり。
食べるたびに「カヌレの真価って、こういうことか」と感じた。

店内では、カヌレを中心にしたアフタヌーンティーセットも楽しめる。
季節のカヌレ、ヌガーグラッセ、キャラメル、バターサンド──
甘さや食感の違いを楽しむコースのような構成は、もはや“芸術”に近い。

ギフト需要にも応えた美しい箱詰めは、見た目にも記憶に残る。
それはまさに、“食べる体験”を超えた“感動を贈る体験”。

👉 カヌレの魅力を味わい尽くしたい方へ
▶︎ https://penheur.com/

エピローグ|カヌレは、過去からの贈り物

「なんだか、旅をした気分だね」
帰り道、彼女が言った。

カヌレという小さな焼き菓子に、まさかこんな物語があるなんて。
修道院の静けさ、貴族のティータイム、失われた時代、再発見の喜び。
そして神戸・北野という場所で、僕たちはそのすべてに触れることができた。

甘さだけじゃない。
手間ひま、歴史、想い、そして未来への静かな情熱。
それこそが、カヌレの真の魅力なのだろう。

次は、大切な誰かに贈りたくなる。
あのころんとした形の中に、言葉にできない記憶をそっと詰めて——

🔗 カヌレの魅力をもっと深く味わいたい方へ

神戸・北野の「Penheur(プノール)」では、カヌレを主役にしたアフタヌーンティーやギフトが楽しめます。
▶︎https://tabelog.com/hyogo/A2801/A280103/28057874/

https://penheur.online/